体外衝撃波治療とは、音波の一種である衝撃波を体内の組織に伝達することで、疼痛改善や組織修復を促す治療法です。医療分野においては、1980年代後半に腎臓の結石破砕術で初めて用いられました。その後、その技術を応用して低エネルギーの衝撃波をさまざまな整形外科領域の様々な疾患に応用するようになりました。ヨーロッパを中心に普及し、低侵襲な治療法として、スポーツ選手にもよく用いられてます。
一般的に体外衝撃波には、フォーカスタイプと呼ばれる集束型体外衝撃波と、ラディアルタイプと呼ばれる拡散型圧力波の2種類があります。
集束型体外衝撃波は、エネルギーが組織深部に集束され、集束点で最大となります。一方で、拡散型圧力波では、エネルギーが皮膚表層から組織深部に向かって放射状に伝わっていきます。照射エネルギーは皮膚表層で最大となり、深部に進むほど減衰していくのが特徴です。
ここからは、体外衝撃波治療で用いられている「衝撃波」および「圧力波」とは何なのか、それぞれの物理学的、生物学的作用などについて、詳しく説明していきます。
衝撃波は音波の一種です。例として、大規模な爆発が発生したとき、雷が落ちたとき、音速ジェット機が音速の壁を超えたときなどに大気中に発生します。衝撃波は「高い陽圧の振幅」と「急激な圧力の上昇」という特徴を持っており、エネルギーを一時的に発生したポイントから離れたところに伝達することができます。
さまざまな種類の衝撃波発生装置がある中で、STORZ
MEDICALでは円筒型電磁誘導方式の発生装置を採用しています。シリンジ型のコイルから発生させた衝撃波をパラボラ型の金属板に反射させ集束させます。分かりやすくいうと拡声器のようなイメージです。電磁誘導方式の衝撃波発生装置は軸方向(深さ)にも横方向にも精密で穏やかな衝撃波エネルギーを照射(dosing)することが可能です。
集束点のサイズに対して、開口部が比較的に大きいということから、衝撃波エネルギーは、広いカップリングエリア(皮膚に接触している面)から体内に入っていくことができます。これによって痛みを感じにくくしていると考えられています。
衝撃波は音波のため、伝播には水などの媒体が必要です。一般的に医療に用いられる衝撃波は、体外の水中で発生させてから生物学的組織に伝達されます。体内組織は主に水によって構成されているため、似たような音響伝達の特徴を持っています。これらのことから、結果的に大きなロス無く体内組織へ伝達することが可能です。
腎結石破砕装置の初代モデルでは、患者様に水の入ったタブなどの中に浸かってもらうことが必要でした。しかし今日のデバイスでは、カップリングジェルを使用することで体内組織への衝撃波エネルギーの伝達を可能にしています。
体外衝撃波はさまざまな生物学的反応を引き起こします。この作用原理はメカノトランスダクションと言われています。
具体的には、腱付着部症の患部に衝撃波を繰り返し照射することで、痛みの原因となる自由神経終末を減少させて疼痛を改善させたり、変性している腱の細胞に機械的圧力が加わることで、各種成長因子が増加し、腱の修復が促進されると考えられています。体外衝撃波は無髄神経線維を選択的に破壊して減少させるものの、有髄神経には影響を及ぼさないとされています。7
衝撃波と超音波は一見似ていますが特徴は大きく異なります。
超音波は狭い帯域の幅で定期的な振幅を繰り返す連続波であることから、出力を高くすると熱が発生してしまいます。
一方、衝撃波は単発の陽圧の後に比較的小さな伸張性のある陰圧のパルスが続くものです。単一波であることからほとんど熱を発生しないため、出力をより高くすることが可能です。
集束型体外衝撃波に加え、近年では拡散型圧力波も治療に用いられるようになってきました。物理学者のアイザック・ニュートンは1687年初頭に彼の有名な作用反作用の法則を確立しましたが、この圧力波システムの作用原理は、まさにこのニュートンの法則に基づいています。
音響圧力波の形状をした機械的なエネルギーが体内の組織に伝播し、特殊な形状のトランスミッターを介して疼痛のあるエリアに到達します。
ヨーロッパで1990年代後半に開発されたこの拡散型圧力波装置は、その後世界中で低コストな筋骨格系疾患の治療法として認知されるようになりました。
医療の用途で使用される拡散型圧力波は、マーケティング的な理由から拡散型衝撃波とも呼ばれてきました。これは対象症例と治療結果が集束型体外衝撃波と非常に似通っていたことが理由にあります。14
医療現場では、拡散型衝撃波治療(RSWT)という用語が未だに広く用いられていますが、物理学的に言うと、圧力波と衝撃波は大きく異なるものとして定義されています。たとえば、拡散型圧力波の波長は0.15~1.5mであるのに対し、衝撃波の波長はたった1.5mm程度です。これが、圧力波と異なり、衝撃波が集束できる理由でもあります。15
圧力波は個体どうしの衝突によって発生します。圧縮空気によってエアガンのように秒速数メートルにまで加速させたプロジェクタイル(発射体)は、インパクトボディ(トランスミッター)に当たることで急激にスローダウンします。発生したエネルギーは、カップリングジェルを介して組織に伝達され、そこから“拡散”するような形状で圧力波が放散していきます。
圧力波の持続時間はインパクトボディ(トランスミッター)の種類によっても異なりますが、通常組織内では約0.2~5msです。また、典型的な圧力波のピークプレッシャーは約0.1~1MPaであり、これは衝撃波の100分の1程度です。4,5
インパクトボディ(トランスミッター)を当てたポイントから発生し、隣接する組織に放射状に伝わっていく圧力波のエネルギー密度は、その位置から離れていくにつれて急速に落ちていきます。これはインパクトボディ(トランスミッター)を当てたポイント、つまり皮膚表面で最も強いエネルギーを発生するということを意味します。
拡散型圧力波は組織内で微小循環の改善と代謝活動の増幅を引き起こす振動を発生させます。16
多くの治療効果が報告されているにもかかわらず、拡散型圧力波の詳細な生物学的作用を調査した科学的な研究は、今のところほとんど行われていません。
衝撃波と圧力波はその物理的な特徴や発生原理においてだけではなく、用いられるパラメータや治療効果が到達する深度においても異なります。しかし、興味深いことに、そのような違いがあるにもかかわらず、刺激作用や治療メカニズムは非常によく似ています。
拡散型圧力波は表層の疼痛に理想的です。また、集束型体外衝撃波での治療の前後に筋肉や筋膜を緩めるために拡散型圧力波を使用することを多くのユーザーが推奨しています。
一方で、慢性化し、比較的深い部位の局所に痛みがある場合は、集束型体外衝撃波を用いての治療が良いと考えられています。17
早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授 熊井 司 先生
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